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HOME > HIV診療における外来チーム医療マニュアル > 第1章 HIV感染症の外来診療におけるチーム医療とは

5)各医療者の役割

施設によって外来を構成する職種は様々である。本マニュアルのねらいは、HIV診療に関わる様々な業務を、どの職種の仕事であると決めることではない。各職種が専門的技能と知識を駆使して各々の得意分野で協調しつつ、限られた人的資源の中で、真に患者のためになるよう、患者のニーズをどのように満たしていくかをチームで取り組む必要がある。次に各職種の主な役割を記す。

(1)医師の役割

医師は診察し、必要な検査を実施し、それらの所見に基づき診断し、治療方針を決定する。治療を要する場合には、処方を行い、治療効果を評価する。患者は医師の一挙一動に敏感である。医師は偏見や差別を避け、不必要な発言や態度は慎み、チーム医療のリーダーとして、患者に安心感を与え、安全な医療を提供する。医師は、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、カウンセラー等の多職種でのチーム医療体制を構築し、チームカンファレンスを開催するなど職種間の情報交換を保障するとともに、チーム医療の最終責任者としての責務を果たす。各スタッフは看護部や薬剤部等それぞれ異なった組織に所属していることを念頭におき、医師は各部門、所属長ともコミュニケーションを図り、各職種がチーム医療を円滑に行うための環境を整える。また、他科連携や院外連携が必要な場合も各職種と協力してその責務を果たす。

(2)看護師の役割

看護師は患者の全人的理解と評価を行い、包括的医療を提供する上でのチーム医療の要(かなめ)である。HIV感染症は慢性疾患となり、患者の診療は治療の有無にかかわらず継続的定期受診を基本とする外来が中心である。療養と生活を両立するには患者の工夫や努力が必要であり、看護師は患者への最新情報の提供、正しい疾患理解の確認、患者からの相談への対応を行い、患者自身が意思決定を行えるように支援する。看護師はケアにおける患者の情報の集約を行い、ニーズを見極め必要な専門職へ連携し、患者理解と患者の問題解決に向けて各専門職と意見交換を行い、それぞれの調整の役割を担う。

(3)薬剤師の役割

薬剤師は医師が処方した処方箋の確認、正確な調剤、薬剤が適正に使用されるよう服薬指導を行う。HIV診療における薬剤師の役割の中で処方箋の確認は、用法・用量の確認に加え、相互作用の確認も重要なポイントとなる。抗HIV薬は多剤併用療法が行われることに加え、日和見感染症治療等、抗HIV薬以外の薬剤が併用される例も多く見られる。抗HIV薬とこれら薬剤の相互作用は数多く報告されており、薬剤個々の薬物動態を十分に把握し、相互作用を理解し、処方箋の確認を行うことが求められる。正確な調剤はもちろんのこと、抗HIV薬は使用患者数が少ないため、特殊な流通を経る薬剤があることから、薬剤の供給体制に配慮する必要がある。

また、院外処方箋を発行する場合は、地域薬剤師会との連携等医薬品供給を円滑に行うための役割が求められる。服薬指導の目的は薬物療法の効果をより確実にし、かつ安全性の確保を図るため、服薬上の適切な指導・助言を行うことにある。患者に伝えなければならない情報を分かりやすく、患者が必要とする情報を理解し的確に伝えていくことが、服薬指導の基本となる。

(4)ソーシャルワーカーの役割

ソーシャルワーカーは、患者・家族等とそれを取り巻く環境の両者を視野に入れた相談支援を行う。具体的な相談援助の課題は、経済的問題、プライバシーの保護、介護、就労、家族やパートナーとの関係など多岐に亘るが、経済的問題を契機に患者と関わることが多い。抗HIV療法は高額であるため、安定した療養生活の継続には、経済的問題の解決が必要不可欠である。社会保障・社会福祉制度の活用によって経済的負担が軽減される場合が多いものの、制度の活用によってプライバシーの漏洩を心配する患者も多い。制度を活用するか否か自己決定出来るような支援が必要であるとともに、患者が生活しやすい社会を作るために地域の関係機関に対して、プライバシーに配慮した対応を求めていくこと等もソーシャルワーカーの重要な役割の一つである。患者の主体性を尊重し、可能な限り患者自ら課題を解決していく力を備えられるよう側面的な支援が基本となる。

(5)カウンセラーの役割

カウンセラーは患者自身およびその周囲の人々(家族やパートナーなど)の感情、思考、認知、イメージなど心に最大の関心を払い、患者らがHIV感染という事実をどのように受け止め、どのように対処していくかを共に考えながら、患者自らの人生を自分らしく生きていけるよう支援する。HIV感染を機にまたは以後に生じた課題および顕在化あるいは増悪化した課題など、生きること自体をめぐって何らかの苦悩や疑問、違和感を抱く患者が自らの人生をよりよく生きるために、自らの主体性を取り戻すプロセスを促進することがカウンセラーの重要な役割である。

そのために、患者や家族等への心理アセスメント、心理療法やカウンセリングを提供したり、他の職種へのコンサルテーションやチームや組織に対しての心理的支援を行う役割を持つ。

(6)精神科医の役割

精神科医は主治医、担当看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、カウンセラーらと情報を共有しながら、患者の心理社会的ストレスを把握しなければならない。次に、HIV診療に伴う特有の精神科的問題として、HIV感染の中枢神経系への直接的影響による認知機能障害や精神症状、抗HIV薬による精神症状などがある。また、感染以前より存在する気分障害や不安障害、適応障害などの精神障害に対する通常の精神科診療も必要となる場合が多い。これらの点に留意しながら、精神科医は適切に診療にあたり、チーム医療としての治療方針、患者・家族へのサポートをスタッフと共に検討しなければならない。HIV感染症に対する包括的な診療にはこうした精神科医の役割が重要である。

コラム チーム内での情報共有について

チーム医療では1人の患者に多職種が関わることがある。その際に注意しなければならないのは、あるメンバーが知り得た患者の情報をどこまでチーム内で共有するかである。診療上必要な情報はチーム内で共有できたほうが良い場合もあるが、反対にチームの全員が知っておく必要のない場合もある。患者もあるメンバーにだけ話したつもりが、患者本人の知らない間に他のチームメンバーに情報が伝わっていたとなれば、不信感につながることもある。患者から知り得た情報に関してチーム内での共有が必要と判断された場合、患者に了解を得たうえで共有するなどの配慮が望ましい。特にカウンセリングやソーシャルワークにおいては、そのような配慮をすることが、患者の内面の世界を含めた自己開示を保障する安全感と信頼感を作る土台となる。

コラム 院外の陽性者支援の紹介

患者の支援を医療機関だけで充足することが困難な場合、当事者同士の交流など、医療機関では得られにくいサービスについては、外部の社会資源の導入を検討する。

HIV感染症は様々な印象を持たれているので、感染をした後の暮らしや性生活、人間関係についての情報は乏しく、見通しが立たない不安を感じる患者は多い。医療機関のスタッフによる正確な医療情報の提供が必要であることはもちろんだが、直接当事者の語りや思いに触れることにより、孤独感や孤立感が癒されたと語る患者や、仲間がいることで前向きにこれからを考えられるきっかけになったと語る患者がいることからも、医療機関だけではない社会資源を紹介することは重要だと考える。複数のチャンネルを通して情報や経験、感情を共有することが可能になっている。

社会資源の種類には、当事者や周辺の家族・パートナーなどを対象とした相談支援や当事者同士の交流、情報提供、通訳などの受療支援などがある。これらのサービスには、NGOや相談機関などが実施する電話相談やグループミーティングなどの直接的な相談支援や交流サービス、インターネットやパンフレットなどによる情報提供サービスなどさまざまである。

医療スタッフが情報提供するためには、地域の中にどのような社会資源があるのかを把握していることが必要になる。具体的には、サービス内容や得意なこと、対象者に制限(性別や性的指向、年代、言語や、インターネット利用の可否)などがあるかどうか、予約の要否やアクセスの方法についてなどである。サービスには限界があることにも留意する。また、情報は変更されることがあり、更新する必要がある。

患者に対し情報提供する時には、情報そのものにも、それぞれのサービスにも限界があることについて案内をすることはもちろんだが、医療機関のスタッフがニーズを選別するのではなく、幅広い選択肢を提示した上で本人が選べるようにすること、またその場で選ばなくても良いように複数の選択肢を持ち帰れるように配慮することなどがポイントとなる。

事前に情報が用意できていない場合には、次に会うまでに情報を収集することを約束したり、患者自身が社会資源を探し出せるよう支援する。

うまく情報を得られない場合には、中核拠点病院かブロック拠点病院のスタッフに問い合わせてもよい。

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