HOME > HIV診療における外来チーム医療マニュアル > 第2章 チームで支援するHIV外来診療
HIV感染症は、医療機関における適切な管理があってこそ、コントロール可能な疾患となる。そのためHIV陽性者にとって医療機関への受診は不可欠である。しかしながら、HIV陽性者の中には、告知を受けても医療機関へ受診することにためらいを感じる例が少なくない。理由は様々だが、HIV陽性者が「受診」という一歩を踏み出すためにも、当事者あるいはその支援者からの相談に応じる姿勢が必要である。
極度に免疫機能が低下あるいはAIDSを発病してからの治療は、さまざまな困難がともなう上、免疫機能の回復が不十分となることもある。またAIDS発病による後遺障害により、場合によっては要介護状態となることもある。近年、HIV感染症はより早期に治療開始することで、予後がさらに改善すると考えられており、HIV陽性者のQOLの面からも少しでも早く医療につながるよう、助力できることが望ましい。
HIV陽性告知を受けた人が、HIV治療のためにまずしなければならないことは、受診する医療機関を決めることである。医療機関の選択にあたっては、医療設備や規模、治療やケアの質、スタッフの充実度、交通アクセスなどが考慮されるが、人によって重視するポイントは異なるので、選択のための情報が提供されることが重要である。
また、HIV診療拠点病院は一般的に規模の大きな総合病院であり、担当医の診療日や診療時間、受診に際しての紹介状や予約の要否などが決められている。HIV陽性者は比較的若い世代に多く、医療そのものが身近でない人も多いので、それらのシステムを伝えることもスムーズな受診のためには必要である。
プライバシーの問題は、他の様々な問題のベースになっていることが多い。「受診する」「保険や諸制度を使う」といったことで、HIVに感染している事実が自分とつながりのある人や機関に知られることを恐れる人は多い。なぜなら、HIV感染症は社会的にまだ十分理解されていない疾患であり、受診したことがきっかけで、生活基盤を揺るがす事態が起きるのではないかと想像するからである。
そのため、HIV陽性者の中には受診をすることで、どのような情報がどこに伝わるのかを事前に知っておき、予測される問題への対処を考えておきたいと考える人もいる。
誰に何を知られたくない内容によっては、必ずしもプライバシーが守りきれない場合もあるが、決して無用な不安は抱かせないよう、適切な情報提供ができることが望ましい。
また、所属機関や関連機関における情報共有のシステムを把握し、日頃からプライバシー保護に対するスタッフの意識を高めておくことも重要である。
HIV感染症の治療には医療費助成制度が利用できるが、実際どの程度の自己負担が生じるのかはあまり知られていない。また、医療費助成制度は一定の条件を満たさなければ利用できないため、投薬前の定期通院などは通常の健康保険による自己負担金を支払わねばならない。収入によってはこれらの負担を重く感じる場合もあるし、未成年やオーバーステイの場合など、保険利用すら難しい場合もある。受診と同時に医療費は発生するため、事前にある程度の見通しを立てておくことが必要である。
HIV感染が分かる以前から、すでに他の病気の治療を受けている場合、それらの病気の治療とHIV感染症の治療がどのように影響しあうのか、既存疾患の治療継続をどのような形でするべきかといった情報を必要とする場合がある。
詳細が分からない段階での回答は難しいが、双方の治療継続において何が不安要因となっているのかによっては、受診前に助言できることもあるので、関係職種とも相談しながら対応を検討することが望ましい。
外国人や聴覚言語障害者、知的障害者など、「聞く」「話す」「書く」「読む」「理解する」ということに支障がある場合、その人の困難の要因、程度に応じてあらかじめ対応を考える必要がある。適切な支援者を同伴させるなど、外部のリソースを活用することも有効である。
受診相談は患者本人から受けるとは限らない。感染を告知した検査機関やHIV陽性者支援機関がスムーズな医療機関への受診を意図して連絡する場合や、家族・友人・知人などが相談する場合なども考えられる。どのような経路で相談されるにせよ、医療機関に連絡があった際に、スムーズに適切な担当者につながることが望ましい。
相談の連絡は医療機関の代表電話、相談窓口などにつながる場合も多いので、平素から院内での連携を図っておくことが必要である。
医療機関側の誰が対応するかは、各医療機関の診療体制等によっても異なると思われるが、多岐に亘る問題領域に答えることができるか、あるいは適切な部署に振り分けることのできる者が担当することが望ましい。