HOME > HIV診療における外来チーム医療マニュアル > 第4章 チーム医療に役立つ資料集
資料13)薬剤血中濃度
(1)薬剤血中濃度測定とは
抗HIV療法におけるウィルス学的失敗の原因の一つである血中濃度低下を来す要因として、アドヒアランス不良、相互作用、不十分な投与量、不適切な服薬、吸収不良、代謝亢進等があげられる。抗HIV薬は現在、核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)、非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)、プロテアーゼ阻害薬(PI)、インテグラーゼ阻害薬(IN)、CCR5阻害薬の5種があり、その薬物動態は各薬剤群によって特徴的な働きを示す。また、抗HIV療法中には多剤併用療法が行われることに加え、抗HIV薬以外の薬剤を併用する機会も数多く見られることから、個々の薬物動態を十分に把握し、相互作用を理解するとともに、有効性・安全性の最適管理を実現するために薬物血中濃度を測定し、患者個々の体質にあわせたテーラーメイドの投与量設定が求められる。
抗HIV薬の中で、NRTIの血中濃度を測定する有用性については、現在のところ明らかでない。NRTIは細胞内に入ってリン酸化された後に効果を発揮する一種のプロドラッグである。血中濃度測定が臨床上有用である薬剤としてはNRTIとPIがあげられ、2005年10月に改訂されたDHHS(Department of Health andHumanServices)のガイドラインでは、PI・NRTIの目標トラフ値(服薬直前値)が示されている(表4-5参照)。
| 薬剤名 | 濃度(ng/mL) | |
|---|---|---|
| プロテアーゼ阻害薬 | インビラーゼ(SQV) | 100-250 |
| フォートベイス(SQV) | 100-250 | |
| クリキシバン(IDV) | 100(130nM) | |
| ノービア(RTV) | 2100 | |
| ビラセプト(NFV) | 800 | |
| レクシヴァ(FPV) | 400 | |
| カレトラ(LPV) | 1000 | |
| レイアタッツ(ATV) | 150 | |
| 非核酸系逆転写酵素阻害薬 | ストックリン(EFV) | 1000(3170nM) |
| ビラミューン(NVP) | 3400 | |
| 拡散系逆転写酵素阻害薬 | ビリアード(TDF) | ― |
(2)薬剤血中濃度測定の意味
第一の意義は治療効果の確認である。服薬アドヒアランスが十分であるにも関わらずウィルス量の再上昇があった場合や、服薬開始後にウィルス量の十分な低下が認められない場合、低下速度に問題がある場合等があげられる。副作用が出現した場合もTDM(Therapeutic DrugMonitoring)の対象となる。副作用と思われる症状が出現した場合等に測定を実施する。
(3)薬剤血中濃度測定依頼の仕方
「抗HIV薬の血中濃度に関する臨床研究(http://www.psaj.com/)」研究班を利用して無料で抗HIV薬の血中濃度測定を依頼することができる。ホームページにアクセスし、ID・パスワードを取得後、必要事項と測定希望薬剤を入力する。採血管は各施設宛に送付される。
図4-6 依頼から結果報告までの流れ
(4)薬剤血中濃度測定を行うタイミング
HAART開始直後は、薬剤による酵素誘導の影響が安定していないため、血中濃度測定を行っても評価は難しい。酵素誘導が安定する投与開始後約2週間を経過した段階で測定を行うことが望ましい。採血は投与直前のトラフ値(Cmin)とピーク値(Cmax)の2ポイント測定が望ましいが、外来診療で患者を長時間拘束する2ポイント測定は困難な場合がある。最も重要なトラフ値を正確に測定し、評価を行うことが重要である。たとえば、朝食後に服薬している薬剤のトラフ値を測定する場合、朝の服薬を行わず外来診療開始時間に来院するよう案内し採血を行う。採血終了後に食事を済ませ服薬させる等の方法をとる。またその際、採血前の最終服薬時間を確認しておく必要がある。EFVは眠前に服用している例が多いため、服薬前の採血を行うことは困難である。EFVの血中濃度を測定する場合は、服薬後約12時間前後で採血し評価を行う。
(5)薬剤血中濃度データの解釈
推奨トラフ値を参考に測定データの評価を行う。治療効果の確認に血中濃度を利用する場合、血中濃度の値が低かったからと言って即座に増量する必要はない。患者の臨床状態を判断し、ウィルス量の推移を見ながら、その治療効果や有害事象に基づいて投与量を調整することが望ましい。血中濃度の結果は採血時の患者の状態を示す一つの検査結果であり、患者の日常すべてを表すものではないことを心がける必要がある。アドヒアランスに関わる問題や日内変動、食事との関連等が複雑に絡み合っていることを忘れてはならない。