VIウイルス学的抑制が長期に 安定して得られている患者での薬剤変更

6.どの組み合わせに変更するのか

 これまでの初回抗HIV治療として推奨されている基本的な組み合わせは、核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)2剤にキードラッグを1剤追加した3剤療法が標準治療であった。この数年で、HIVに対して抗HIV効果が優れた薬剤を含む2剤療法のエビデンスが蓄積してきている。ここでは、3剤療法・2剤療法・単剤療法に分類して概説する。

(1)3剤療法への変更

 薬剤耐性変異の獲得がある症例や、ウイルス学的治療失敗歴があり薬剤耐性獲得の可能性がある症例を除外すると、初回抗HIV治療として推奨されている3剤療法への変更については変更後のウイルス学的治療失敗の危険性は極めて少ない(AI)。ウイルス学的に抑制された症例を対象としたスイッチ試験の多くでは、前治療に対する被験薬(現在の初回治療の推奨の組み合わせ)の非劣性が証明されている。以下にエビデンスとなった第III相臨床試験の結果を紹介する。

 DTG/ABC/3TCを被験薬としたスイッチ試験(STRIIVING試験)では、NRTI 2剤とキードラッグとして非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)・インテグラーゼ阻害剤(INSTI)・プロテーゼ阻害剤(PI)のいずれかを内服し、6ヶ月以上のウイルス学的抑制が得られた症例が対象となった4)。主要評価項目は投与24週時点のFDASnapshot解析によるウイルス学的効果であった。ウイルス学的治療成功率はDTG/ABC/3TC群84%、前治療継続群で88%であり、非劣性が示された。

 BIC/TAF/FTCについては、複数のスイッチ試験が行われた。ブーストしたATVまたはDRVを含む前治療からBIC/TAF/FTCへのスイッチ試験(1878試験)では、6ヶ月以上のウイルス学的抑制が得られた患者が対象になった5)。主要評価項目である48週における血中HIV RNA量が50コピー/mL以上の症例の割合はBIC/TAF/FTC群が2%、前治療継続群が2%であり、非劣性が証明された。1961試験は、EVG/cobi/TAF/FTC・EVG/cobi/TDF/FTC・ATV+rtv+TDF/FTCのいずれかの治療により12週以上のウイルス学的抑制が得られた女性患者が対象となった6)。主要評価項目である48週における血中HIV RNA量が50コピー/mL以上の症例の割合は、BIC/TAF/FTC群が2%、前治療継続群が2%であり、非劣性が示された。1844試験は、DTG/ABC/3TCからのスイッチ試験である7)。3ヶ月以上のウイルス学的抑制が得られた患者が対象になった。この試験は、他の多くのスイッチ試験と異なり、二重盲検試験として実施された。スイッチ(BIC/TAF/FTC)群と前治療を継続する(DTG/ABC/3TC)群に1:1で無作為に割り付けられた。主要評価項目はFDA snapshot解析による投与48週における血中HIV RNA量が50コピー/mL以上の症例の割合であった。血中HIV RNA量が50コピー/mL以上の症例の割合はBIC/TAF/FTC群で1%、DTG/ABC/3TC群で1%未満であり、BIC/TAF/FTCの非劣性が示された。患者報告アウトカムを検討した報告では、悪心・嘔吐やめまい・ふらつきといった不快な症状の頻度がDTG/ABC/3TC群と比較するとBIC/TAF/FTC群で有意に少なかった8)。これらの結果に基づき、BIC/TAF/FTCは切り替え前3ヶ月以上のウイルス学的抑制が得られている症例において国内でも承認が得られた。

 RAL(400mg錠・1日2回)を被験薬とした第III相臨床試験にはSWITCHMRK試験がある9)。LPVベースの治療によりウイルス学的抑制が3ヶ月以上観察された症例が対象となった。RALの非劣性を証明するための二重盲検化試験として計画された。24週におけるウイルス学的治療成功率は、RAL群で84.4%、前治療継続群で90.6%であった。その差(-6.2%)の95%信頼区間(-11.2から-1.3)の上限が0を下回ったため、LPVに対するRALの劣性が示された。過去のウイルス学的治療失敗歴がある症例で、RALにスイッチ後の治療失敗のリスクが高いことが示された。この試験の結果は、薬剤耐性に対するジェネティックバリアの低い薬剤に変更する時には、過去の治療失敗歴や薬剤耐性獲得の確認の必要性を意味している。RAL(600mg錠・1日1回)については薬剤変更に関する第III相臨床試験が実施されていない。添付文書の効能又は効果に関連する使用上の注意では、「ラルテグラビル400mg 1日2回と他の抗HIV薬でウイルス学的抑制が得られているHIV感染患者に使用すること」とされている。変更前のウイルス学的抑制の期間は定められていない。

 RPV/TAF/FTCを被験薬とした第III相臨床試験は、RPV/TDF/FTCおよびEFV/TDF/FTCからの2つのスイッチ試験(1216試験と1160試験)がある10, 11)。DRV/cobi/TAF/FTCを被験薬とした第III相臨床試験は、ブーストしたPIとTDF/FTC配合錠の組み合わせからのスイッチ試験がある12)。いずれも同一のクラス内スイッチであり、前治療継続群との比較が行われ、非劣性が証明された。

 DOR/TDF/3TCを被験薬とした第III相臨床試験にはDRIVE-SHIFT試験がある13)。6ヶ月以上ウイルス学的抑制(血中HIV RNA量が40コピー/mL未満)が維持されている症例が対象となった。前治療としては、ブーストしたPI、もしくはEVG/cobi、またはNNRTIにNRTIを2剤併用した組み合わせが含まれた。無作為割り付け後にDOR/TDF/3TCにスイッチする群(早期スイッチ群)と、24週まで前治療を継続し、24週時にDOR/TDF/3TCにスイッチする群(対照群)に割り付けられた。主要評価項目は、早期スイッチ群の48週および対照群の24週における血中HIV RNA量が50コピー/mL未満の患者の割合であり、両群の治療期間は異なっていた。早期スイッチ群の主要評価項目は90.8%、対照群の主要評価項目は94.6%であり、前治療に対するDOR/TDF/3TCの非劣性が示された。

(2)2剤療法への変更

 薬剤の改善などにより長期にわたって良好な状態を維持できる患者の増加に伴い、NRTIによる長期的な有害事象の軽減や医療費の抑制といった観点から、抗HIV治療を導入と維持の2相に分けるという考え方もでてきている。生涯にわたって3剤併用療法が必要か否かは、現時点では結論は出ていないが重要な検討課題である。2剤療法には、キードラッグ1剤とNRTI 1剤の組み合わせと、キードラッグ2剤の組み合わせがある。初回抗HIV治療として推奨されているDTG/3TCや第III相臨床試験でのエビデンスがあるDTG/RPVへの変更は、適切な症例を選択すれば、治療変更の選択肢として十分考慮できる。DTG+3TCについては12の実臨床データの報告を解析したメタアナリシスが発表されている14)ものの、それ以外の2剤療法の実臨床データは限られており15)、特に服薬アドヒアランス不良の症例への有効性は明らかでない。

キードラッグ1剤とNRTI1剤の組み合わせ

 NRTI 1剤とINSTIを併用した組み合わせとしては、DTG/3TCが挙げられる。3剤療法からDTG/3TCにスイッチした第III相臨床試験には、現在進行中のTANGO試験がある16)。この試験は、TAFベースの3剤療法により6ヶ月以上ウイルス学的抑制となった症例が対象となり、前治療を継続する群とDTG/3TCの合剤にスイッチする群に1:1に無作為に割り付けられた。ウイルス学的治療失敗歴のある症例や、薬剤耐性の症例、B型肝炎を合併した症例(HBs抗原陽性・血中HBV DNA陽性のいずれかを満たす症例)が除外された。48週後のFDA snapshot解析による血中HIV RNA量50コピー/mL以上の割合は、DTG/3TC群で0.3%、3剤治療継続群で0.5%であり、3剤療法に対するDTG/3TCの非劣性が示された。また、DTG/3TC群で薬剤耐性を獲得した症例は報告されなかった。この結果から、DTG/3TCへの変更はウイルス学的治療失敗歴がなく、DTGと3TCに対して耐性を認めず、B型肝炎合併がない症例については考慮すべき選択肢である(AI)。DTGと3TCの合剤であるドウベイト®配合錠が2020年1月に国内で承認され、2020年6月には既治療患者への適応が追加された。適応条件は「ウイルス学的失敗の経験がなく、切り替え前6か月間以上においてウイルス学的抑制(HIV-1 RNA量が50copies/mL未満)が得られており、本剤の有効成分に対する耐性関連変異をもたず、本剤への切り替えが適切であると判断される抗HIV薬既治療患者」である。

 NRTI 1剤とPIを併用した組み合わせとしては、ATV+rtv+3TC、DRV+rtv+3TC、LPV/rtv+3TCなどのスイッチ試験の報告がある17-20)。TDF、TAF、ABCが使用できない場合など、DRV+rtv+3TCが妥当な選択肢になる可能性がある(CI)。

キードラッグ2剤の組み合わせ

 キードラッグ2剤の組み合わせは、臨床試験でエビデンスが示されたものは少ないものの、さまざまな組み合わせが存在する。Ccr30mL/分未満の腎機能低下がある場合、NRTIは用量調整が必要となり、NRTI含有の配合錠は使用できない。臨床の現場では、腎機能低下の他にもさまざまな理由でキードラッグ2剤の組み合わせが選択肢になる可能性がある。

 第III相臨床試験が行われたものとして、DTG+RPVへのスイッチ試験(SWORD-1/2試験)がある21)。この試験は、6か月以上のウイルス学的抑制が得られた患者を対象に、これまでの治療を継続する群とDTG+RPVに変更する群に無作為に割り付けて、48週時点でのウイルス学的治療成功率を比較したものである。48週時点でのウイルス学的治療成功率はどちらの群でも95%であった。これらの結果に基づき、2018年11月に抗HIV薬既治療患者に対して、DTGとRPVの合剤(ジャルカ®配合錠)が日本で承認された。使用上の注意として「ウイルス学的失敗の経験がなく、切り替え前6ヵ月間以上においてウイルス学的抑制(ヒト免疫不全ウイルス[HIV]-1 RNA量が50copies/mL未満)が得られており、本剤の有効成分に対する耐性変異を持たず、本剤への切り替えが適切であると判断される抗HIV薬既治療患者に使用すること」と記載されている。この条件に合致する患者では、DTG/RPVへの変更も考慮すべき選択肢の一つである(BI)。なお、RPV単剤(エジュラント®錠)の添付文書の効能または効果に関連する注意では治療経験のないHIV感染患者に使用することと記載されている。

(3)単剤療法への変更

 単剤療法は第2世代INSTIであるDTGや薬物動態学的ブースター併用のPIのいずれにおいても推奨できない(AI)。DTGの単剤療法の評価を目的とした複数のスイッチ試験が報告されている22-28)。スイッチした多くの症例でウイルス抑制は持続したものの、治療失敗に伴いインテグラーゼ領域の薬剤耐性変異が容易に出現していた。これらの結果からDTGの単剤療法は推奨できない。薬物動態学的ブースター併用のPIによる単剤療法も、複数のスイッチ試験の報告がある29-33)。2016年に報告された13の無作為化比較試験のメタアナリシスでは、3剤療法と比較するとPIの単剤療法で血中HIV RNA量が50コピー/mL以上となるリスクが高かった34)。本ガイドラインとしてはPIの単剤療法は推奨しない。

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