VIII抗HIV薬の作用機序と薬物動態

3.抗HIV薬の代謝と薬物相互作用

 PIやNNRTIは、チトクロームP450(CYP)の基質であると同時にその活性を抑制(時に促進)する作用がある。従って、CYPで代謝される他の薬剤との相互作用が生じる(抗HIV薬同士の相互作用については前述)。そのため、PIおよびNNRTIと併用禁忌または注意とされる薬剤には、抗痙攣薬、抗不整脈薬、HMG-CoA還元酵素阻害剤、ワルファリンカリウム、ベンゾジアゼピン系薬など多くのものがある。リファマイシン系薬剤との併用に関しては第XI章 表XI-1を参照。

 抗HIV薬の相互作用の確認は、最新の添付文書とともに海外薬物相互作用データベース(HIV InSite, HIV/HCV Medication Guide, The University of Liverpool hivdruginteractionsなど)の活用が有用である(表VIII-2)。

 また、抗HIV薬に関しては、血中濃度測定が可能なものは適宜測定して薬剤濃度が治療域にあることを確認することが望ましい(4.抗HIV薬のTDMを参照)。健康食品や漢方薬として市販されているものの中にも相互作用を有するものがあり(セイヨウオトギリソウSt. Johns's Wartが代表的)、注意を要する。

表VIII-2 HIV治療で有用な薬物相互作用情報
国内 添付文書(PMDA) https://www.pmda.go.jp/index.html
中四国エイズセンター
飲み合わせチェック!HIV関連薬の相互作用Ver.6.2
http://www.aids-chushi.or.jp/index.html
国立国際医療研究センター薬剤部
NCGM薬物相互作用検索(肝炎治療薬) NDIC
http://www.ddi.ncgm.go.jp/
海外 DHHSガイドライン https://clinicalinfo.hiv.gov/en/guidelines/adult-and-adolescent-arv/whats-new-guidelines
The University of Liverpool https://www.hiv-druginteractions.org/
HIV/HCV Medication Guide https://www.hivmedicationguide.com/
HIVInSite(University of California San Francisco) http://hivinsite.ucsf.edu/insite?page=ar-00-02
University Health Network https://hivclinic.ca/wp-content/plugins/php/app.php
The Body Pro https://www.thebodypro.com/article/anti-hiv-drug-interactions

(1)核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)

本剤の代謝物あるいは未変化体は主に腎臓より排泄されるため、腎機能の低下している高齢者や糖尿病患者では、高い血中濃度が持続する可能性がある。特に、腎機能障害を有する患者には注意が必要である。表VIII-1-1に各薬剤の特徴と、成人の腎機能障害時に対する各NRTIの減量の標準的目安を示す。NRTIの中で他の抗HIV薬との併用による相互作用に注意しなければならない薬剤はTDFおよびTAFである。TDFとATVを併用すると、ATVのAUCが25%、Cminが40%減少するため、併用する場合はATV300mgをrtv100mgと共に投与することが望ましいとされている6)。また、用量調節の必要はないとされているが、TDFとLPV/rtvを併用すると、LPVのAUCが15%減少し、TDFのAUCは34%増加するため、腎機能障害のある患者やその既往のある患者に投与する場合は注意を要する6)。TAFについては、カテプシンA、CYP3A、P糖蛋白の基質であるため、rtvやcobiを併用する際は低用量の製剤(デシコビ®LT)を選択する必要があり、同様にp糖蛋白およびCYP3Aを阻害または誘導する薬剤と併用する場合には、注意を払う必要がある。TAFとリファンピシン(RFP)やリファブチン(RBT)との併用では、これらのP-gp誘導作用により、TAFの血中濃度が低下する可能性があり、DHHSガイドラインでは併用を避けるとしている7)

(2)非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)

 NNRTIはいずれもCYPにより代謝を受ける。このうちNVP, EFV, ETRはCYP3A4を誘導する。またEFVはCYP2B6・2C19も誘導するが、CYP3A4阻害作用を有する。ETRはCYP2C9・2C19を阻害し、RPVはCYP3A4の基質とされ、主にCYP3A4で代謝される。DORはCYP3A4で代謝されるため、カルバマゼピン、フェノバルビタール、フェニトイン、RFPなどのCYP3A4の誘導剤との併用により血中濃度が著しく低下するため併用禁忌である。また、DORとRBTを併用投与する場合は、DOR100mgを約12時間の間隔を空けて1日2回に増量し、RBTの併用を中止した場合は、DOR100mgを1日1回に減量する8)(表VIII-1-2)。後述するPI等CYPによって代謝される薬剤と併用した場合、薬剤によっては組み合わせた相手の薬剤の血中濃度を低下もしくは上昇させる可能性があるため注意が必要である。RPVは胃内のpH上昇により吸収が低下するため、プロトンポンプインヒビターは併用禁忌である。また、H2受容体拮抗剤や制酸剤(乾燥水酸化アルミニウムゲル、沈降炭酸カルシウム等)の併用も血中濃度が低下するため、これらの薬剤と併用する際は服用時間を空けるなど投与間隔の調整が必要となる。

(3)プロテアーゼ阻害剤(PI)

 PIは主にCYPを阻害する働きを持ち、その主な対象となる分子種はCYP3A4である。PIの中で最も強くCYP3A4を阻害する働きを持つ薬剤はrtvである。主なPIの半減期はAPVが7.7時間、LPVが5~6時間と短いため、rtvの強力なCYP3A4阻害作用を利用し、長時間高い血中濃度を保つことで、1日1回投与を可能としている(boosted PI)。また、CYP3A4はイトラコナゾール、クラリスロマイシン、ニフェジピン、カルバマゼピン、ジアゼパムなど多くの薬剤の酸化的代謝に関与する酵素である。PIを使用した場合、同じ分子種で代謝される併用薬の血中濃度が上昇する可能性があるため注意を要する。rtvは現在国内で使用されている医薬品の中で、CYP3A4に対する阻害作用が最も強い薬剤と考えられることから、その相互作用には、特に注意を払う必要がある。また、PIは血漿蛋白結合率も高く、P糖蛋白の基質にもなることから注意が必要である。STB(スタリビルド®)、GEN(ゲンボイヤ®)およびPCX(プレジコビックス®)に含まれるcobiはCYP3A4を選択的に阻害する作用を有していることから、rtv同様、相互作用には注意を払う必要がある。

(4)インテグラーゼ阻害剤(INSTI)

 RALはCYPにより代謝を受ける可能性は低く(in vitro)、主にUDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)1A1により代謝を受ける(in vitro, in vivo9)。PIやNNRTIとは異なり薬物相互作用の問題は少ない。EVGは主にCYP3A4で代謝される10)。CYP3A4を選択的に阻害するcobiを含む配合剤のため、CYP3A4を阻害または誘導する薬剤と併用する場合には、注意を払う必要がある。また、DTGは主にUGT1A1で代謝されるが一部はCYP3A4を介し代謝される。DTGはCYP3A4及びUGT1A1を誘導する薬剤(ETR、EFV、NVP、抗てんかん薬など)と併用する場合は、DTGを50mg1日2回に増量する。BICはCYP3A4とUGT1Aの両者で代謝される7)

 INSTIはHIVウイルスDNAの宿主ゲノムへの酵素的挿入に必要なMg2+イオンをキレート化することにより、抗ウイルス活性を発揮する11)。そのため、INSTIは2価金属(Mg, Al, Fe, Ca, Zn)などの多価陽イオンを含む薬物、食品、またはサプリメントと相互作用を引き起こしてINSTIの吸収が低下する可能性がある。多価陽イオンとの併用は、INSTIの食後服用の確認や服用間隔を空けるなどの注意が必要である。

(5)侵入阻害剤(CCR5阻害剤)

 MVCはCYP3A4及びP糖蛋白の基質であり、in vitroでP糖蛋白を阻害する(IC50:183M)。ヒトにおける試験及びヒト肝ミクロソームと発現酵素系ミクロソームにおけるin vitro試験から、MVCは主にCYPを介し、HIV-1に対する効果を持たない代謝物に変換されることが示されている。また、in vitro試験から、MVCの主な代謝酵素はCYP3A4であり、遺伝的多型を示すCYP2C9、CYP2D6、及びCYP2C19の代謝への寄与は小さいことが示されている。本剤はCYP3A4及びP糖蛋白の基質であり、これらの酵素もしくはトランスポーターを阻害する薬剤及び誘導する薬剤の併用によりMVCの薬物動態が変化する可能性がある。CYP3A4又は、CYP3A4及びP糖蛋白を阻害する薬剤のケトコナゾール、rtv、LPV/rtv、ATV、及びDRVは、いずれもMVCのCmax及びAUCを増大させた。CYP3A4誘導薬剤のEFV、ETR及びRFPはMVCのCmax及びAUCを低下させた。MVCをCYP3A阻害剤又はCYP3A誘導剤と併用する場合には、用量調整の必要があるため注意が必要である5)

PAGE TOP

アンケートにご協力ください。

このページは役に立ちましたか?

コメント